『正真仏教』(しょうしんぶっきょう)とは、河口慧海が1936年(昭和11年)に出版した仏教書。『在家仏教』の続編であり、晩年の彼が著した仏教論の集大成とも言える作品である。
河口慧海の他の著作と同じく、原本は既に著作権が切れており、国立国会図書館デジタルコレクションにてインターネット上に(『正真仏教』1936)として画像データが公開されている。また、Amazon.co.jpなどでも、その電子書籍データ(画像)が低価格で販売されている。
構成
以下の通り、全5篇108章から成る。
内容
基本的な内容は10年前の『在家仏教』をそのまま引き継いでおり、
- 釈迦仏教(根本仏教)と、その教えを正しく引き継ぐ (と慧海が考える) 初期大乗仏教(や中観思想・唯識思想など)のみを正当・正統とする。
- 出家仏教を断念し、在家者による法灯・僧伽を重視・推奨する。
- 釈迦牟尼仏を唯一の本尊とする。
- 帰依三宝、四諦・三学・八正道、六波羅蜜といった実践を重視する。
といった「在家仏教」の内容が、改めて詳述される。
本書では、新しい概念である「在家仏教」を理解してもらうために、既存の仏教諸宗派批判に多くの記述が割かれていた前作『在家仏教』とは異なり、続編の利を活かして「在家仏教」それ自体の内容が(あまり余分な内容を挟まずに)順序立てて述べられている。
(ただし、禅定について述べられる60-65章では、彼の元々の出自でもある禅宗について、長い記述を割いて詳述・批判が行われている。)
出版の経緯
本書出版の経緯は、冒頭の「序」に述べられており、当時の世界大戦が迫る世界的に社会不安が高まっている時期に、相変わらず日本では邪教や偽仏教が氾濫し、人々を救済できないでいる中、再度仏教の本義を示す必要性を感じたことと、伊東に別荘を持っていたある人物(東京・日暮里にて「赤帽印ネクタイ」事業で財を成した南文蔵という人物であることが判明している)が若干の資金提供と共に釈尊の本旨を詳示するよう求めてきたその熱意に突き動かされて、数ヶ月を費やして書かれたことが述べられている。
歴史観
内容面の特徴としては、仏教の歴史と法灯を分かりやすく説明するために、
- 1. 根本仏教 --- 仏弟子アーナンダ死去まで。釈尊の直説と大乗 (利他) 精神が生きていた時代。
- 2. 原始仏教・小乗仏教 --- 実在論・唯物論や利己へと堕落していく時代。
- 3. 初期 (第一期) 大乗仏教 --- 根本仏教の復興。
- 4. 中期・後期 (第二期・第三期) 大乗仏教 --- ヒンドゥー教の影響を受けて堕落。
といった時代区分が示され、1と3が正当・正統な仏教で、2と4が逸脱的・堕落的な形態であると説明される。
(ただし、前作『在家仏教』と同じく、3の初期大乗仏教の正統性を主張するのに、専らチベット系の文献に依拠するなど、その論拠の脆弱性は否めない。)
法論
また、法(ダルマ)や法身(ダルマ・カーヤ)概念の意味の変質が、上記のような堕落を生んでいることが、前作『在家仏教』よりも強調的に述べられている。
すなわち、元来それらの概念には「自他を徳体へと導く実践的教法・修行法」という意味が含意されていたが、それが抜け落ちて外道的・他力的な「理体・万有神信仰」へと堕落することになったと説明される。
出版
- 『正真仏教』 古今書院、1936年
- 改訂版 慧文社、2010年
脚注
参考文献
- 河口慧海『正眞佛教』古今書院〈出版年:昭11年〉、1936年。doi:10.11501/1229210。NDLJP:1229210。https://dl.ndl.go.jp/pid/1229210。「国立国会図書館デジタルコレクション」
外部リンク
- 正真仏教(新字新仮名全文書き起こし)




